ホロン(holon)

アーサー・ケストラーが言った「ホロン(holon)」の考え方である。(図ー1)

ホロンとは、ホロス(holos)という「全体」を意味する言葉と、オン(on)という「粒子」又は「部分」を意味する言葉との合成語で、「個であると同時に全体であり、全体であると同時に個である」、仏教的にいうと「一即多、多即一」という考え方である。

 石川教授の言を借りて説明すると、自然は1つの有機システム(生命体)であって、1つ1つにホロンが様々なレベルで階層的に積み重なった構造をしており、上から見れば部分であり、下から見れば全体となる、ということである。

 個々のホロンは、ホロンとしての自律性を持ち、個性的な動きをする。1つのホロンは、自分を構成する下位レベルのホロンを全体的秩序に従わせる支配者の役割と同時に上位レベルのホロンに従属・支配を受けるのである。全体の秩序を維持するために自主的に自らを消滅させたり、あるいは再生させたりして、構成部分を作り替えたりする。

 さらにこのとは、1個体の内部だけでなく、個体の集合体も有機システムを構成する。アリや鉢の集団がその典型的な例と言える。集団そのものが1個の生物と同じ機能を持っているのである。生殖機能や筋肉、肝臓、腎臓といった機能を特定の構成員が担当する。1個の生物というより、有機体の中の細胞と考えるべきである。そして、それぞれの細胞が自分の役割・担当をきっちり果たすことによって、生命を維持しているのである。

 地球上の生態系は1つの生命体であり、人間も自然を構成する下部構造としてのホロンであり、人間だけが自然から切り離された特殊な存在ではない。当然地球的生命の秩序維持に寄与すべき存在である。ホロンとしての人間は、自律的に行動できるが同時にその行動は、地球、自然、社会という有機システム全体が調和のとれた機能を維持するために役立つ行動でなければならないということである。(石川光男著「生命思考」)